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推理小説の感想

その可能性はすでに考えた(ネタバレ感想)

基本情報

作品名:その可能性はすでに考えた

作家:井上真偽

出版:講談社文庫

 

あらすじ

山村で起きたカルト宗教団体の斬首集団自殺。唯一生き残った少女には、首を斬られた少年が自分を抱えて運ぶ不可解な記憶があった。首無し聖人伝説の如き事件の真相とは? 探偵・上苙丞(うえおろじょう)はその謎が奇蹟であることを証明しようとする。論理(ロジック)の面白さと奇蹟の存在を信じる斬新な探偵にミステリ界激賞の話題作。(http://kodanshabunko.com/sonokano/より)

 

感想

これはね、かなり衝撃を受けましたね。

なにが衝撃だったかと言うと、物語の構造と論理の緻密さです。

まず1点目の物語の構造という点。そもそも探偵が奇蹟の証明を目的にしているので「犯人がいないこと」を証明するってそんな発想ありませんでした。今までの推理小説だって多重解決の作品はたくさんあるわけですよ。ちなみに僕の読んだ最初の多重解決作品はノックスの陸橋殺人事件で、バカだった子供の僕は正直退屈であんまり面白くねえなと感じた記憶があります。

この本の構造って導入→探偵の対決が繰り返し→真相って感じなんですが、探偵の対決のシーンって通常のミステリであればクライマックスな訳で、一番盛り上げるシーンなわけですよ。それが真相解明も含めると4回もあるので大盤振る舞いというわけです。ただ、この構成には一つ弱点があって、物語性が少し弱いかもしれません。推理小説の魅力ってある意味、次は誰が殺されるとか、連続殺人が起きることで謎が深まるとかそういうとこにもあるんじゃないのって思うのですが、そういう部分の楽しみは少し薄いです。でもこれは作品の構成上仕方がない点なのでそこに文句をつける人は強欲です。

2点目の論理の緻密さなのですが、これはかなり作者の方のこだわりが見える部分で僕は読んでいて嬉しくなってしまいました。僕はクイーンが子供のころから好きなので、こういう作品に弱いんですよね。

敵の面々がありえないと思われる説を色々と疲労してくれるのですが、どれもありえないというのは簡単だけど論理的に否定するとなると難しいという代物です。一つ目の水車を熱して豚を走らせて凶器を移動させるとか、すげえ雑なトリックだなと思いますが、それを豚の飼育番号から鮮やかに否定する手腕に感動しました。

特に好みだったのはカヴァリエーレ枢機卿との対決シーン。これは僕も読んでいてやられたと思いました。まさに刀を喉元に突きつけられたような万事休す感。でもここからのひっくり返し方が秀逸で、要は根拠にしている推理(仮定)が真か偽かということで切り返す部分、ここは本当に感服しました。高校の数学を解いてるような気分にさせられましたね。

最後の真相については、その可能性こそ上苙さんならすでに考えているだろと思ってしまいましたが、それを言うのは野暮ってもんでしょう。少年、母親、教祖の三位一体が織りなすある意味奇蹟じみた可能性ですからね。

論理性が高い作品を読みたい方は一読の価値があると思います。